【1000円の壁】油そばはラーメンとは似て非なる、別の料理です【麺とスープ】

過去にラーメン店で勤務し、経営に携わった経験から書きました。筆者は調理師免許を持っています。

ラーメンの定義とは・油そばはラーメンとは違う、別の料理

ラーメンは拉麺と書きます。
拉とは「手で引き延ばす」という意味です(Wikipediaより)。

完全な手打ち麺を作っているラーメン店は、現在の日本ではかなり珍しいでしょう。

自家製麺を謳っているラーメン店でも、機械を使っているところがほとんどですよね。

ラーメンのスープは一般的に、タレとスープを混ぜて作られます。

醤油味のラーメンなら、醤油ダレにスープを注いで一杯のラーメンスープが出来上がります。

タレとスープを分けているのは味を調整するためです。
日によってタレもスープも微妙に風味が異なるため、わずかに割合を変えて出来上がりを調整します。

同じ味の料理をいつも提供するのは、お客様が思っている以上に難しいのです。
さまざまな条件により、同じ手順で作っただけではなかなか同じ味になりません。

そして、麺とスープを組み合わせたのがラーメンです。
発祥は中国料理ですが、ラーメンは日本で独自に発展したという認識は多くの人が持っているのではないでしょうか。

麺とスープの両方が揃ってこそ、ラーメンです。
つまり、どちらが欠けてもラーメンとは呼べません。

一方、油そばはスープを使いません。
麺にタレを絡めたメニューです。

油そばはスープがありませんからラーメンではない、別の料理になります。

スープを使わない分、原価を抑えられるのが油そばの大きな特徴と言えるでしょう。

ラーメンと油そば、決定的な原価の違い

ラーメンの原材料でコストが一番かかっているのはスープだと聞いたことのある人は多いと思います。
例外はあるかもしれませんが、完全にその通りです。

真面目にスープを作っているお店ほど、大きなコストをかけています。

近年、油そばをメニューに並べるラーメン店が増えましたね。
物価高の昨今、スープを使わないのですから安く作れるメニューと言えます。

ですが実際のところ、ラーメン店に油そばがあっても、お店全体としては原価をそれほど抑えられません。
メニューにラーメンがある以上、スープを用意することは変わらないからです。

閉店後にスープが余って処分することになったら、余った分は過剰なコストとなります。

油そばの注文が増えたらラーメンの注文は減りますから、仕込むスープの量も減るでしょうね。

この考えを突き詰めていくと、ラーメンがない油そば専門店なら原価をかなり抑えることができることになります。

原価が一番かかるスープを用意しないのですから、当然ですよね。

東洋経済オンライン・ラーメンライター井出隊長さんの記事

先日、東洋経済オンラインでこのような記事がありました。
時間に余裕があったら、リンク先の記事をぜひ読んでください。

■東洋経済オンライン:「わずか3坪の物件」「しかもゴミ屋敷同然」にあえて出店!人気油そば店「鈴の木」の名物店主・りゅう社長の意外と(?)深い”狙い”

情報量の多い記事タイトルですよね(笑)。

中身をざっくり言うと……。

・油そば専門店がオープンした。店名は「とびっこ東京」

・場所は東京池袋。3坪のテイクアウト専門店

・池袋の店舗は3号店。東京浅草の1号店は閉店、神奈川鎌倉に2号店あり

・「油そば 鈴の木」を経営されている、りゅう社長さんによるセカンドブランド

というものです。

便宜上、1〜3号店と書きましたが、実際の店名に号数があるかは不明です。

正式な店名は「魚介塩そば専門店 とびっこ東京」でしょうか。
もしかしたら「鎌倉店」や「池袋店」と付いてるかもしれませんが、記事からは読み取れません。

書いたのは井出隊長というライターさんです。
ラーメン関係の記事を多く書かれている、肩書きがラーメンライターという方です。

「魚介塩そば専門店 とびっこ東京」はメニューにラーメンはなく、コスパを追求した油そば専門店のようです。
さらにテイクアウト専門、スタッフはワンオペとしてコスト削減を徹底しています。

メニューはまぜそば一種のみで税込680円。あとはトッピングと肉飯です。

物価高の中、安く作れるまぜそばを更にリーズナブルに提供するスタイルでしょうか。

ラーメン1000円の壁と油そば

前項で紹介した、東洋経済オンラインの記事では「ラーメン1000円の壁」にも少し触れていました。

1000円の壁はよく聞く言葉ですよね。
お店側としては壁を超えたいのだけど、お客様側の認識が変わるにはもう少しかかりそう?

りゅう社長さんはラーメン1000円の壁を越えるのとは逆に行きたくて、680円のまぜそば専門店にしたそうです。

いやいや、ちょっと待ってください。
まぜそばはラーメンじゃありませんよ。

まぜそば専門店をオープンさせて、ラーメン1000円の壁を超えていないと言うのは論点が違うんじゃないでしょうか。

でも、せっかく新しいお店がオープンしたんですから、「魚介塩そば専門店 とびっこ東京」池袋店には成功してほしいと思います。

価格が手頃ですし、味も良くてリピーターが付けば人気が出て流行るんじゃないでしょうか。近くに行ったら食べてみたいです。

まとめ・油そばはラーメンとは違う、別の料理です

ラーメンは麺とスープの両方が揃ってこそ、ラーメンと呼べる料理です。
どちらが欠けてもラーメンとは呼べません。

つまり、スープを使っていない油そばは、ラーメンとは異なる別の料理だということです。

油そば専門店が「ラーメン1000円の壁を超えていない」と喧伝するのは誤っている、と筆者は思います。

でもこのお店が繁盛したら、経営的には勝ちですよね。

そういえば、ラーメンライターの井出隊長さんが2025年10月に新しく本を出版されるようです。

「ラーメン一杯いくらが正解なのか」という、ラーメン1000円の壁について書かれた本のようですよ。